新刊紹介

中村健之介（監修・共訳）
『宣教師ニコライの全日記』
教文館、2007年07月

日本ハリストス正教会を創建した宣教師ニコライ・カサートキン――すなわち御茶ノ水「ニコライ堂」のニコライが、来日中の1870年から1909年にかけて残した日記の全訳である。ニコライの日記は、関東大震災で焼失したものと思われていたが、レニングラードの中央国立古文書館にその30冊が保管されており、2004年にまずロシア語版（全5巻）が刊行されたのを経て、このほど全9巻におよぶ日本語訳が完成した。聖典の翻訳、聖堂の建設、カトリックやプロテスタントとの布教の競合等々、日記にはさまざまな事柄が詳細に書きつづられている。のみならず、たとえば地方における宣教の光景など、この日記でしか知ることのできない史実も多い。哲学者ソロヴィーヨフ、植物学者マクシモーヴィチ、そして作家ドストエフスキーといった人物も登場するこの日記は、日本におけるキリスト教受容史の見直しを迫る文書であると同時に、ロシアの文化や芸術に対する認識をよりいっそう豊かなものとするための記録でもあるだろう。（中村健之介／編集部）