新刊紹介 |
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竹峰 義和
『アドルノ、複製技術へのまなざし――〈知覚〉のアクチュアリティ』
青弓社、2007年07月
複製技術メディアをめぐるアドルノの理論と実践とが本書のテーマである。このテーマについては、すでに紋切り型となったアドルノ像がある。複製技術メディアを積極的に評価していたベンヤミンに対して、それを文化産業の手段として退けていたアドルノ。モダニズムに極まる「自律的な芸術」だけを認めていたアドルノ……。こうした紋切り型にアドルノが収まりはしないことを本書は明らかにしている。これまで広く読まれてきたテクストが改めて綿密に読解されるとともに、最近公刊され始めた新たな史料がその読解作業を支える。この極めて正統的な研究態度でもって本書が浮き彫りにしてゆくのは、徹底的な批判のなかに複製技術メディアの積極的な可能性を認めていたアドルノの姿であり、それも、ラジオ・映画・テレビのコンテンツ制作に実践的に関わるなかで自らの理論的省察を練り直し続けていたアドルノの姿である。思えば、これまで「アドルノが何を考えていたか」はよく論じられてきたが、「アドルノが何をしていたか」はあまり論じられてこなかった。先行するアドルノ研究の積み上げに基づきながら、アドルノの実践からその理論を再検討し、また逆にその理論から実践の意義を照らし出すこと、ここに本書の画期的な意義がある。さらに本書は、最後の二つの章で、いわば「アドルノ以後におけるアドルノの可能性」を描き出してさえいる。すなわち、アレクサンダー・クルーゲを中心とする「ニュー・ジャーマン・シネマ」の理論と実践とである。本書でアドルノ研究に新たな一歩をもたらした著者・竹峰が今後このテーマをどう展開してみせてくれるのか。本書を再読しながら、刮目して待ちたい。(清水一浩)
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