新刊紹介

沖本幸子『今様の時代――変容する宮廷芸能』
東京大学出版会、2006年2月

「今様」とは、院政期に流行した今様の(同時代の)ことばで歌われる歌謡である。著者の博士論文をもとにした『今様の時代』は、宮廷における今様の盛衰を軸としながら、芸能における中世的世界の到来の様相を描き出す。従来注目されてこなかった多くの資料を丹念に読み込み、関連する諸分野の最新の研究成果を消化したうえでの堅実な論証が、文化史研究としての本書の記述に大きな説得力を与えている。本書の試みの中心はしかし、こうした実証的手続きのすべてを賭けて迫るべき、より根源的な問いにある。それは、「力」への問いである。

本書が論じるように、今様をはじめとする芸能において歌われる肉声と舞われる肉体とは、王権の頂点と民衆的世界とを接続し、王権という政治的な力を、別種の力の領域へと媒介する存在だった。それは、大陸渡来の神々を召喚する境界地の力であり、性別を問わず宮廷において作用したエロスの力である。後白河院という、この時代を象徴する法王において典型的にみられたこの接続の試みが、王権を支える神話力の再生を意味していたと論じる著者の躍動的な筆致は、それ自体が芸能の根源的な力に由来するかのような魅力にあふれている。広い意味での身体の芸術に関わる全ての研究者にとって、本書は必読の書である。(横山太郎)