新刊紹介

松浦寿夫・岡崎乾二郎 『絵画の準備を!』
朝日出版社、2005年12月

本書は、美術作家であるとともに批評家であり、現在日本の美術界にあってモダニズムの伝統とその刷新をおそらく最も正統的に思考し継承せんとしている二人による、対話の記録である。本書をとりわけスリリングなものとしているのは、「芸術のモダニズム」について、すぐれて啓蒙的な役割を果たす点だけでなく、まさにそこに当事者として介入する実作家の言説実践とも言うべき、批評=創作活動の一環を垣間見ることができるという点だ。対話は、90年代半ばより断続的に行われてきたものであり、2002年に初めて出版された後(セゾンアートプログラム刊)、しばらく入手困難な状態が続いていたが、今回決定版として再刊された。本書には70頁近くに及ぶ最新の対談が増補される一方、欄外に加えられた註や図版は、非常に豊富で丁寧につくり込まれ、専門外の読者が彼らの思考の核心に迫ることを容易にしてくれる。とっつきやすい読み物の体裁だが、扱われる内容は、西洋近代の美術・文学・思想から日本画や映画、政治(憲法や選挙)の問題に至るまで、きわめて多岐にわたっており、随所に繰り出される「考えるヒント」を読み飛ばさないよう気をつけなければならない。これは、ジャンルを超えてわれわれの思考を刺激するアイディアの宝庫であり、したがって何度も読み直しうるし読み直すべき、真に現代的な思考の記録である。(宮崎裕助)