新刊紹介

小林康夫編 『美術史の7つの顔』
未來社、2005年6月

顔貌とは内面の表出作用のインターフェイスである、とそのようにとりあえず理解しておくならば、造形芸術がどんなかたちであれ視覚的表象をこととする限りにおいて、顔はその特権的な対象であり続けてきたはずである。しかし、「絵画はつねに顔を取り逃してきた」と冒頭に置かれた導入的論文を小林康夫はこう書き始める。では、顔は美術史のなかにどのように姿を現し、そして同時に逃げ去ってきたのだろうか。本書ではそうした問題が、絵画面における顔の顕れの問題を存在論哲学の枠組みのうちに位置づけなおす前述の小林論文を皮切りに、ピカソがフィギュールに被らせた変形のうちに(平倉 圭)、オットー・ディックスの観相術的視線のうちに(香川 檀)、ジャコメッティにおける顔貌の非形態的な類似のうちに(橋本 悟)、そしてその他あわせて7つの顔のうちに捉えなおされることになるだろう。そうした顔貌の把捉は、最後を飾る日高 優のウォーホル論において、カムフラージュのうちに逃げ去るマリリンの顔を確認してひとまず締め括られることになる。その他にフランシス・ベイコン論(大原宣久)などを含む本書は、表象文化論の気鋭たちの若々しい思考の歩みを記録している。(門林岳史)