新刊紹介

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン
『残存するイメージ――アビ・ヴァールブルクによる美術史と幽霊たちの時間』
竹内孝宏・水野千依訳、人文書院、2005年12月

アビ・ヴァールブルクの評伝として、いまなお屹立しているエルンスト・ゴンブリッチの仕事は、「イコノロジー」のディシプリン形成とも連動しながら、とりわけヴァールブルクの「知的生涯」を提示しようとするものであった。それから三〇年あまりを経て、ジョルジュ・ディディ=ユベルマンは、むしろヴァールブルクの「非知」的生涯とイメージの理論におけるその射程を再検討する作業に着手する。

ゆえにそこでは、当然のことながら、ゴンブリッチが積極的な言及を避けた主題、すなわちヴァールブルクにおける「狂気」と「知」の関係が詳細に論じられることになる。

しかし「狂気」の状態にあるのは美術史家だけではない、とディディ=ユベルマンはいう。ボッティチェッリのヴィーナスからホピ族の蛇にいたるまで、ヴァールブルクはイメージを「象徴」として、さらには「症状」として分析することをやめないというわけだ。ヴァールブルクはそれを「情念定型」と「残存」のモデルによって説明する。ディディ=ユベルマンはそれを端的に「幽霊」とよぶだろう。

こうして、アビ・ヴァールブルクという美術史家の(イメージの)「狂気」から出発してイメージの(美術史家の)「幽霊」的な様相そのものを丹念にトレースしていくというのが、本書におけるディディ=ユベルマンの基本的な立場性であり、それによって美術史に何度目かの「開始」をもたらそうというのがその慎ましい野心である。(竹内孝宏)