新刊紹介 |
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塚原史
『反逆する美学——アヴァンギャルド芸術論』
論創社、2008年07月
本書は、すでに幾冊ものアヴァンギャルド論を上梓している著者の論考を集めたものである。
「アヴァンギャルド」――とりわけ未来派、ダダ、シュルレアリスムなどの「歴史的アヴァンギャルド」――について正面切って論じるのは、今日ではそう容易なことではない。それも「反逆」という視点からということになれば、なおさら「反時代」的である。
本書の著者はそのことを重々承知しながらも、「「人間の存在根拠」の大きな物語が終わった場面からアヴァンギャルド研究を再構築するという難問が」私たちには突きつけられていると述べ(第Ⅱ部第4章「アヴァンギャルド研究への一視点――「後ろめたさ」の意識をめぐって」)、その難問に果敢に挑んでいる。
本書が扱っている範囲はきわめて広く、「歴史的アヴァンギャルド」をはじめとしてさまざまな時代と地域のアヴァンギャルド芸術に及んでいるが、どの論考にもこうした姿勢が鮮明に貫かれている。と同時に本書の特徴としてなによりもまずあげられるべきは、「反逆する美学」がつねに社会的反抗と関連づけられていることであろう。それは、ダダやシュルレアリスムを論じる際はもちろんのこと、岡本太郎、荒川修作、松澤宥、寺山修司などの日本のアヴァンギャルドを論じるときにも変わらない。制度的な価値体系そのものへの「反逆」が問題にされているのである。
「「反逆する美学」は必然的に「反逆する思想」に結びつくはずだったが……戦争と革命と収容所の時代を経てすべてのモノとサーヴィスが記号化され、かつてアヴァンギャルド芸術に漂っていた破壊の魅惑さえも商品化される消費社会が訪れると、「反逆者」たちのイメージは「ゲバラTシャツ」から(小林)「多喜二寿司」まで、毒気を抜かれた差異表示記号として流通することになってしまったようだ。……そのことをあらためて確認したうえで、「反逆する美学」が政治の前衛との過去の不幸な蹉跌を乗り越えて、ふたたび新たな「反逆する思想」を見出すための試みを、みずからに課しておきたい。」
これは「あとがき」の一節であるが、じつはその作業はすでに本書の中でも存分に展開されている。まさに本書は、芸術・美学の「反逆」可能性に微かなりとも望みを抱いている者にとって必読の書である。(桑野隆)