海外の学術誌

Csabella, Domus
――イタリア建築批評の80年
嵯峨 絋美

1928年にイタリアで創刊されたふたつの雑誌が、ともに今年でちょうど80周年を迎える。言わずと知れた、CasabellaDomushttp://www.domusweb.it)である。

両誌はともに建築、デザインに関する最新の情報を提供すると同時に、各号ごとに設定されたテーマに沿うようなプロジェクト、批評やインタヴューが集められて構成された総合誌である。単独の対象としてはとらえがたい建築や都市に様々な角度からアプローチする試みがなされており、そこで展開される言説は社会、政治、歴史、文学、美術、メディアといった隣接する領域を横断することもしばしばである。したがって特集によっては建築プロパー以外の論客に門戸が開かれているのも特徴である。

イタリア合理主義を高らかに宣言した建築家たち、“グルッポ・セッテ”の拠点でもあったミラノで創刊された両誌では、産声を上げて間もない合理主義に関する論文も積極的に掲載され、特にCasabellaはファシズム体制と複雑に絡み合いながら、当時の批評界をリードし続けた。戦後、エルネスト・ロジャースやアレッサンドロ・メンディーニといった編集者の手によって国際的に高い評価を受ける雑誌として定着し、言語も伊語テキストに英訳が添えられた出版形態をとるようになった。

Casabellaは建築史家のフランチェスコ・ダル・コーが1996年から指揮を執っている。たとえば「図書館」がトピックにされた号では、機能や場としての図書館とはなにかを考察する手引きとして思想や文学からの引用が与えられ、ハンス・シャロウンのベルリン国立図書館、ゴードン・バンシャフトのベイニッケ図書館といった図書館建築の歴史的メルクマールの分析に続いて、デイヴィッド・チッパーフィールドらの最新の図書館プロジェクトへのレヴュー、進行中のストックホルム図書館増築計画案に関するメモなどが並行して読める流れになっている。大判の紙面を活かして写真だけでなく豊富な図面が掲載され、読者が自身で検証できるような工夫もなされており、歴史研究、批評、実作というサイクルをバランスよくサポートしているといえよう。

一方、創刊者であるジオ・ポンティの再就任/辞任後、4、5年ごとに編集者を入れ替えるシステムをとっているDomusでは、昨年の5月に世代交代を経て新しいシーズンに入っている。編集長の交替によりタイトル・ロゴが変わるのは恒例だが、ヴィジュアルの面で一新されただけでなく、特集の組み方における傾向にも変化がうかがえる。前任編集長であったステファノ・ボエリは、MUTATIONS展でのレム・コールハースとのコラボレーションで広く知られる都市計画家、建築家である。グローバリゼーションという不可逆的な衝撃への地域ごとの対応を徹底した実地的リサーチにより拾い上げ、膨大な写真イメージと統計学的データの集積を提示することによってありのままの都市を表象しようとするボエリの手法は、多くの建築家によって反復されるほどのインパクトを持っていた。「Domusは国際地政学のクリシェへの解毒剤を探して、コスモポリタンで多文化的な大都市の風景とパラドクスを研究する」というある号の表紙にあるスローガン通り、ボエリの経済情勢、地政学、社会学的見地からの都市、建築へのアプローチはDomusを濃く色づけていた。しかし3年半という任期での今回の退任は、このボエリ的戦略への倦怠感からと囁く声も多い。複数の都市に設計事務所をかかえる建築家として多くの画廊や展覧会施設の設計を手がけ、美術収集家でもあるフラヴィオ・アルバネーゼが後任となったのも、慎重なドキュメントよりも大胆で実地的な議論を得意とする新編集長に変革が期待されている証拠ではないだろうか。現代美術に多くのページを割き、ハイブリッドな新生Domusを目指す新編集長の舵取りに注目が集まっている。

嵯峨絋美(東京大学大学院)