新刊紹介 |
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建畠 晢(編)
『宮川淳 絵画とその影』
みすず書房、2007年11月
宮川淳の名は、没後三十年になる今も、ある澄んだ響きをもって私たちを魅惑し続けている。美術評論家としての主要なテキストを編んだ本書は、宮川のレトリックの芳しさを、私なりの言葉にするなら“論理というものの本質に属しているポエジーの明晰さ”を改めて印象付けずにはおかない。
芸術の不在の問題を問うことなく、個々の作品の価値判断を自己目的化してしまっている批評を「フェティシズム」として切り捨てた彼は、近代主義美術におけるさまざまな確執を、作品自体ではなく「pratique discursive」を通して分析することに徹しようとした。引用されることの多い「近代とは様式概念であると同時に、また、ボードレールにはじまる強烈な近代の意識と感覚に裏付けられた価値概念として成立した」(『アンフォルメル以降』)という明快なテーゼは、まさに美術の現場から距離をおく特権的な立場からの洞察であったに違いない。
「反芸術とは結局、ひとつの曖昧性の体験であった」(『絵画とその影』)というのも、驚くべき的確な指摘である。ネオダダなどの反芸術が「卑近な日常性への下降」によっていかに芸術の外に出たつもりでいても、芸術はその場に亡霊のように立ち現われてくる。詩的直観と一体化した宮川の批評的ラディカリズムは、最終的に“芸術は存在しないことの不可能性によって存在している”という不穏なテーゼへと私たちを導いていくのである。(建畠 晢)
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