新刊紹介 |
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木村 理子
『モンゴルの仮面舞儀礼チャム――伝統文化の継承と創造の現場から』
風響社 、2007年11月
なんといっても迫力がある。ブックレットで手軽に読めるが、そこに凝縮されたものの膨大さに圧倒される。
本書は、モンゴルの「チャム」という密教儀礼について書かれたものだが、実はこれを研究すること自体、奇跡としか言いようがない。なにしろモンゴルは1990年まで社会主義国だった。1937年の粛清以来、寺院破壊やラマ僧虐殺が行われ、何百年も人々の間で信仰されてきたチベット密教も根絶やしにされてきた。しかも、チャムは「秘儀」だ。「口伝」を命とする儀礼の伝承にとって、生き証人がいないことは致命的である。
それを著者は、秘儀であることに最大限の注意と敬意を払いながら、各地のチベット文化圏で行われている同趣旨の儀礼を徹底的に見て分析し、その上で、モンゴルでのチャムを経験したたった一人の生き残りのラマ僧から口述を得ることに成功した。そして、一度は途絶えたモンゴルのチャムの実態と、それを支える世界観を具体的に明らかにしたのである。
さらに本書が魅力的なのは、この著者の探求の道のりが、モンゴルでのチャムの復興とも重なっているからだ。社会主義から民主化へとまさに劇的な変化を遂げつつあるモンゴルで、人々が信仰を回復していく道程を、著者は共にたどっているのである。本書を読み進める内に、外国人による研究書であることを忘れてしまいそうになるのはそのためで、そうした意味でも、希有な書ということができそうである。(沖本幸子)
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