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第6回表象文化論学会賞受賞式

(2)選考委員コメント

千葉文夫

審査員となって二年目を迎えると、慣れたとか、勝手がわかったというのとはほど遠い状態にありながらも、現在の表象文化論学会のあり方を占う指標のごときものがここに見出せるのだろうかと余計なことまで考えたりもします。といっても、はっきりした答えがあるわけではありません。

今回の特徴のひとつとして、今年度の審査の対象となった六冊のうち五冊が博士学位請求論文に加筆修正を加えて生まれたものであり、論文の提出先が日本の大学であったり、海外の大学であったりという違いはあっても、それゆえに一定の長い年月をかけて、資料調査と解読に没頭し、それなりの試行錯誤の体験を経て書かれたものであることがすぐにわかります。

ロトチェンコやレオニドフの仕事、シャルル・クロの「発明」、アントナン・アルトーの「自我の変容」、フーコー晩年の著作など、各自が選びとった対象はさまざまであっても、独自の論を立てようとする意図もまた明確に示されています。選ばれた主題の多様性の点でも、それぞれの著作の内実をなす知見の点でも、表象文化論学会を支える若手研究者の意欲的で高い水準の仕事の一端がここに示されていると見ることができるにちがいありません。その点では、ほかの学会と比べてみても勢いが感じられるのではないでしょうか。

それでもなお、審査対象となった著作を読み進めながら、果たしてこれでよいのだろうかと思う瞬間がありました。それは、すでにできあがった土俵の上で仕事をしているのではないかという危惧のようなものです。整ったアカデミックな環境のなかではそれなりの評価を得ることができるとしても、それだけでなく、瓦礫と化した世界のなかで力をもつ著作となりうるのかどうかに思いをいたさねばならないのではないか、ほかならぬ表象文化論学会だからこそ、そのような力の獲得をめざさねばならないのではないか。自分でも偉そうなことを言っている気がしますが、委員二年目となった最後の感想として聞き捨てて頂ければ幸いです。

小林剛『アメリカン・リアリズムの系譜』は、上記とは別の流れにある著作で、現場(たとえば教育のそれ)のなかで培われた思考を感じました。ほかの著作と比較すると、ページ数の上では少し軽量級の印象があるかもしれませんが、学会奨励賞に浮上した主たる理由はそこにあったのだと思います。本田晃子『天体建築論』には、とりわけ文章のはこびの魅力、スケール感のある構想力を感じました。ほかの方々の個々の著作について言及する余裕はすでにありませんが、場合によっては私自身の仕事のヒントとなるような大きな刺激を得ました。審査という仕事そのものは悩ましいものですが、みなさんの著作を読むという機会が与えられたことに感謝します。

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