新刊紹介 編著、翻訳など 『ドゥルーズ千の文学』

芳川泰久ほか(編)
『ドゥルーズ千の文学』
せりか書房、2011年1月

フランスでの教育制度のせいだろうが、欧米の名だたる哲学者のなかで、ドゥルーズほど文学への参照が際立つ著者はいない。プルーストをはじめ、マゾッホ、カフカ、ベケットといった対象ばかりか、ほとんどの著作で、語っている事柄に付随して、小説家や詩人への言及が目につく。文学とともに思考すること。これはいったい、どのような事態なのか。そんな素朴な問いから思いついた企画だった。

ドゥルーズはガタリなしで書いているときでさえ、いわば文学者と二人で書いている。ならば、その文学者の側からの声を聴いてみたい。文学者の単声ではなく、ドゥルーズとの多声を、あるいはドゥルーズを経た声を聴いてみたいと思ったのだった。これは、ドゥルーズと同時代もしくは以降に生きていなくては不可能だが、その不可能な事態を、一種のフィクションの束として、聴いてみたい気がした。その不可能を、いわば条件法で書けないだろうか。その試みが『ドゥルーズ 千の文学』である。

そこには転倒がある。しかしこの転倒をもふくめて、ドゥルーズの文学体験の総体に近づけるような著作を読んでみたかった。ひとりの編著者の夢想から生まれた一冊である。(芳川泰久)