新刊紹介 | 編著、翻訳など | 『ダーウィンの珊瑚――進化論のダイアグラムと博物学』 |
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濱中春(訳)
ホルスト・ブレーデカンプ(著)『ダーウィンの珊瑚――進化論のダイアグラムと博物学』
法政大学出版局、2010年12月
イメージはいかにして知を構築しうるのか。図像は言語テクストを補助的に説明する挿絵であるだけではなく、それ自体も知を形成する仕組みや力をもつのではないか。近年、ドイツ語圏において美術史学の発展的形態として展開されつつあるイメージ学(Bildwissenschaft)のおもな関心領域のひとつに「知のイメージ」があるが、本書はそこで中心的な役割をはたしている著者が、ダーウィンの『種の起源』に添えられたダイアグラムを対象として、知の構築においてイメージがもちうる可能性を掘り起こしたものである。
通常、進化の系統樹や樹形図と称されるこのダイアグラムについて、本書はそれが樹ではなく珊瑚をモデルにしているという対案を打ち出している。古代にさかのぼる系統樹の系譜と珊瑚の文化史を背景に、ダーウィンの手稿のなかのスケッチや覚え書、またダイアグラムそれ自体の緻密な分析を通した論証の過程は謎解きのようにスリリングであり、かつ説得力をもつ。進化の「系統樹」という認識に再考をうながし、進化生物学や生物系統学に刺激をあたえるだけではなく、美術史・イメージ学の新たな可能性、とくに知のイメージ研究の方法や意義をコンパクトに把握することにも適した一冊である。(濱中春)
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