新刊紹介 編著、翻訳など 『アンフォルム 無形なものの事典』

加治屋健司(訳)近藤学ほか(訳)
イヴ=アラン・ボワ(著)ロザリンド・E・クラウス(著)『アンフォルム 無形なものの事典』
月曜社、2011年1月

1970年代から現在にいたるまで、英語圏を中心とする近現代美術史をリードしてきた著者二人による本書は、若き日のジョルジュ・バタイユが編み出した反=概念「無形(アンフォルム)」をキーワードに、20世紀美術史を組み替えてみようという提案の書である。ただし「バタイユ研究」とは呼びにくい。著者たちの関心はあくまで、バタイユらの思考を20世紀、とくに第二次大戦後の美術の諸相に当てはめてみるとどうなるか、という点に向けられている。原書の副題はそれを強調して「使用の手引き」となっていた。だから願わくば、本書を手にとってくださる方には、ボワ/クラウスの「使用」がどのような成果を挙げ得たのかに注目していただければと思う。扱われているアーティストや作品に少しでも親しんでいれば理想的だろう。既知の対象が意外な配置のもとで新しい相貌を帯びるといった面白さが、本書の醍醐味であることは間違いないからだ。もちろん予備知識などなくてもいいし、さらには論旨に異議を唱えてもかまわない。序章で述べられているように、近現代美術史に「風穴をあける」ことこそがこの本の目的だったのだとすれば、そうして新たに吹きこんでくる空気が著者たちとはまるで無縁の領域からのものであっていけないわけはない。(近藤学)