新刊紹介 編著、翻訳など 『音楽文化の現在4 アジアのポピュラー音楽――グローバルとローカルの相克』

井上貴子(編著)
『音楽文化の現在4 アジアのポピュラー音楽――グローバルとローカルの相克』
勁草書房、2010年11月

これまでの日本のポピュラー音楽研究は欧米と日本の事例に偏っており、アジアに注目した研究は非常に少なかった。そこで、本書は「アジア」という地理的かつ理念的な枠組みを設定し、グローバル化時代のポピュラー音楽におけるローカルなアイデンティティの形成と主張、現実のローカルな空間や時間との重複とズレ、それがもつ意味を探ることを課題としている。具体的には「アジア」という地理的空間に住む人々によって作られ、流通する音楽、あるいは「アジア」を前景化している音楽の事例を取り上げ、欧米との交渉を念頭におきながら、それらの音楽が現実のグローバルあるいはローカルな時空間のなかで生成変容する過程を描き出す。本書は、可能な限りアジアの多くの地域をカバーする(中国・韓国・バリ・タイ・インド・アラブ)と同時に、移民音楽や異文化の定着に焦点をあてた章(ワールドミュージック・オーストラリアの和太鼓・在英南アジア系移民)、韓国やオーストラリアの研究者の論考も含んでおり、全体の構成自体がグローバルとローカルの重層性/多層性という今日的状況を表すものとなっていると思う。また、これが欧米とアジアのはざまにある日本の立ち位置を再考するきっかけになればと考えている。(井上貴子)