新刊紹介 単著 『ゴダール的方法』

平倉圭『ゴダール的方法』
インスクリプト、2010年12月

本書は、ゴダールの作品に対する外在的考察を拒絶し、徹底的に内部から「ゴダールの方法によるゴダールの分析」を展開することで、大きな成功を収めている。それは、ジル・ドゥルーズが提起し、紋切り型になった「間隙」、「共約不可能性」、「〈と〉の方法」による従来の議論を乗り越え、刷新していく。この方法論は、ゴダールのイメージ操作の手つきを「剽窃」すること、彼の作品の鍵概念である「類似」という視座をもつことで可能になる。諸イメージを常に捉えあぐねる分析者は、これらを通じて、自らの経験内だけでなく、それらの内在へと侵入し得るのである。

また本書のあとがきで著者は、ゴダールの映画を見る‐聴くことの反復で自らの知覚経験が変容したことを吐露し、しかも冒頭で、「私に認識しうるかぎり」でのゴダールの音と映像パターンを分析の方法的道具として使用する、とも語る。従って、ゴダールの新たな作品に伴い、著者はまた自らの知覚形式を変形させるに違いない。そしてその経験は新たな圧縮で、私たちの前に提示されることになるであろう。本書は、ゴダールの映像と音に対する新たな議論に向けた、期待と潜勢力を多分に孕んだ著作でもある。(松谷容作)