新刊紹介 単著 『メーテルランクとドビュッシー』

村山則子『メーテルランクとドビュッシー――『ペレアスとメリザンド』テクスト分析から見たメリザンドの多義性』
作品社、2011年3月

本書は戯曲『ペレアスとメリザンド』とオペラ《ペレアスとメリザンド》――同じ題名を持つふたつの芸術作品――に関する研究書である。前者はメーテルランクが作者であるが、本書を読めば従来のように後者をドビュッシーの作品とは言い切れなくなり、題名である「メーテルランクとドビュッシー」に落ち着くことになるだろう。

《ペレアスとメリザンド》のような文学オペラ研究においては、戯曲のテクストがリブレットに使用されている点で、音楽だけではなく原作戯曲の分析も避けられない。著者は包括的な『《ペレアスとメリザンド》』論を展開するために、まずは再評価高まるメーテルランクと当時の象徴主義運動という文学側のアプローチから始める。そのうえで可能な限り戯曲とオペラの両者を対等に扱い、作者2人が生み出した文学のテクストと音楽のテクストを比較してそれぞれの特徴を明らかにする。このことによって、オペラ研究に常につきまとっていた、原作をどこまで分析対象とするかという問題に対するひとつの回答を提示している。

戯曲とオペラ、両者を対等に扱おうとする野心的な試みが本書の最大の強みであり、今後の演劇学と音楽学の架橋を促す良書であるといえる。(岡本佳子)