新刊紹介 | 単著 | 『ロシア・アヴァンギャルドの世紀――構成×事実×記録』 |
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江村公『ロシア・アヴァンギャルドの世紀――構成×事実×記録』
水声社、2011年1月
20世紀初頭のロシアでは、激動の社会情勢に呼応するように、スプレマチズムやロシア未来派といった芸術の領域における革命が巻き起こる。そして1920年代に入るとイーゼル絵画などのそれ自体が自律した価値を持つ芸術作品は否定され、実用品の生産やグラフィック・デザインを志す構成主義や生産主義理論が興隆する。構成主義の芸術家や生産主義の批評家たちは、芸術という特権的な領域を排除して、素材の組織化や事物の制作プロセスという観点から人間の生産活動を幅広くとらえようとした。彼らが試みたのは、いわば芸術の革命による破壊の後に、デザイン、メディア、工業生産といった造形と表象の領域を再編成し、それらに共通する形式と方法を構築することであった。
本書は「構成」「事実」「記録」というコンセプトに焦点を絞ることによって、このようなドラスティックな展開をみせるロシア・アヴァンギャルドの核心に迫ろうとする。ここでは、抽象画家、デザイナー、そして写真家として活躍したアレクサンドル・ロトチェンコが、ロシア・アヴァンギャルドの展開を体現するキーパーソンとして中心的に取り上げられる。近年では国内外でロトチェンコに関する展覧会が相次いで開催されており、本書の出版はまさに時宜を得ているといえよう。とりわけ、生産主義の理論家、ニコライ・タラブーキンの踏み込んだ考察は本書の中でも特に優れた部分であり、ソヴィエト生産主義の特異な思想の研究は世界でも望まれるものである。
本書は、先鋭的なアメリカのモダン・アート批評を踏まえて「「モダニズム」の中核」をなすものとしてロシア・アヴァンギャルドを捉えると同時に、アヴァンギャルドから全体主義への転換というソヴィエト文化論の大きな問題にも取り組んでいる。それに加えて個々の事例や資料の詳細な考察がなされ、ロシア・アヴァンギャルド内での造形芸術の転換にも目配りがなされる。本書は1980年代以降、国内外で盛んに研究されてきたロシア・アヴァンギャルドの視覚造形文化に対して、新たなパースペクティヴを与えるものとなるだろう。 (河村 彩)