新刊紹介 | 単著 | 『現代芸術をみる技術――アート・思想・音楽をめぐる十八章』 |
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江藤光紀『現代芸術をみる技術――アート・思想・音楽をめぐる十八章』
東洋書店、2010年12月
「分かりたい、に応えたい」という小題で始まる本書は、美術の知識を持たない初心者を読者として想定している。本書は、こうした読者に「現代芸術」を観るためのリテラシーを提供することを目的として書かれているのである。著者は、作品が制作された歴史的なコンテクストを「ですます調」の平明な文章で解説していくことで、それを行う。
ここでは、印象派からフォーヴィスムへ、セザンヌからキュビスムへ、表現主義からシュプレマティスムへ…といった美術の歴史ばかりではなく、無調から12音技法、ノイズへと到る音楽の歴史に対する目配せもなされている。
20世紀はじめから現代に到るまで、ピカソから村上隆に到るまで、広範囲にわたる「現代芸術」の数々に均等に関心を注ぎつつ、そこに「統一的な視点」を導入しようと試みる本書は、「現代芸術」を「分かる」ための恰好の入門書として役立つことだろう。
「分かる」ことが芸術作品にとっての最良の接し方なのか、という誰もが抱くだろう疑問は措くとして、本書で辿られるような「現代芸術」の「流れ」は一度整理しておく必要があるのかもしれない。
本文373頁のなかに登場する人物は、200人以上。この数からも明らかなように、個々の作品についての分析は最小限にとどめられており、これを手にした読者には、本書で言及されている作品なり作家なりを自分の関心に従って掘り下げていくことをお薦めする。
美術初心者のための入門書、芸術学講師の教科書。(井上康彦)
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