新刊紹介 翻訳 『マルセル・シュオッブ全集』

千葉文夫(ほか共訳)
マルセル・シュオッブ(著)『マルセル・シュオッブ全集』
国書刊行会、 2015年6月

シュオッブ全集の刊行企画の話を聞いたときは、無謀に近い企てに思えたが、アナクロニズムも徹底するとタイムリーな性格をおびるのかどうか、六月末の刊行から一月も経たずにして増刷が決まる勢いでこの高価な本が売れている。シュオッブという作家に全身全霊をささげる瀬高道助の思いがかなったわけであり、本人も深い満足を覚えていることだろう。高価だとはいっても、シュオッブの仕事ほぼすべてが一冊に収まり、巻末資料に加えて栞、蔵書票などの付録も用意されているので、判断は各人の懐具合にもよるが、必ずしも高いとはいえない。すべてが美しいブルーの箱にスムースにおさまる仕上がりも日本の職人の巧みな技を示している。フランスでは近年フェビュス版とベル・レットル版の二種類の一冊本全集が出たが、本書はそのいずれをも上回る存在感をもっており、ベル・レットル版の編纂者アレクサンドル・ジュファンもその点は認めている。紹介子自身はシュオッブを読むにあたって、「世紀末文学」とか「怪奇幻想文学」というレッテルは邪魔だと思うし、またドゥルーズが評価する作家という能書きも不要と思っている。だからその中身が読者の期待を裏切ることはないだろう。(千葉文夫)

千葉文夫(ほか共訳)マルセル・シュオッブ(著)『マルセル・シュオッブ全集』国書刊行会、 2015年6月