新刊紹介 翻訳 『シュルレアリスム、あるいは作動するエニグマ』

谷口亜沙子中田健太郎・鈴木雅雄・長谷川晶子・永井敦子(共訳)
ジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロン(著)齊藤哲也(編)『シュルレアリスム、あるいは作動するエニグマ』
水声社、2015年4月

ジャクリーヌ・シェニゥー=ジャンドロンの新たな論文集が刊行された。一九八〇年代から約三十年間にわたる論文の中から、六人の研究者たちがとくに重要だと思う一本または二本を選んで訳出しした日本オリジナルの論文集である。編者である齊藤哲也が本書に与えた『シュルレアリスム、あるいは作動するエニグマ』というタイトルは、シュルレアリスムという運動の魅力だけでなく、シェニゥー自身の論文の魅惑を言い当てたものでもある。アカデミックなスタイルにはおさまらず、大胆な飛躍と唐突な接続が頻出するシェニゥーの論考は、時に追いかけることが困難なほど、独特の不透明さをはらんだ「謎(エニグマ)」そのものとなる。だが、それは「作動」する。問いを惹起し、思考を刺激し、我々のなかの「驚きの能力」をどこまでも研ぎ澄ませながら、シェニゥー=ジャンドロンは、フランスにおいても、日本においても、シュルレアリスム研究を作動させつづけてきた。『シュルレアリスム』(鈴木雅雄・星埜守之訳、人文書院、一九九七年)から十八年、この新たな論文集もまた、シュルレアリスムを「ただひとつの大きな曲線」やスローガンに要約することを拒む者たち、その矛盾をはらんだ複数性にこそ目を瞠ろうとする者たちにとっての無数のヒント、思考の引き金、触媒、加速器となってゆくことだろう。(谷口亜沙子)

谷口亜沙子、中田健太郎、鈴木雅雄、長谷川晶子、永井敦子(共訳)齊藤哲也(編)ジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロン(著)『シュルレアリスム、あるいは作動するエニグマ』水声社、2015年4月