新刊紹介 | 翻訳 | 『古典BL小説集』 |
---|
熊谷謙介・小松原由理・片山亜紀・利根川真紀(共訳)
笠間千浪(編)『古典BL小説集』
平凡社ライブラリー、2015年5月
古典とBL──、意想外の二つの語が並び立つこの翻訳は、現代のBL(ボーイス・ラブ)・「やおい」の萌芽が、19世紀末にあることを示したアンソロジーである。
「女性作家が描く男性同性愛の物語」というBLの条件から言えば、女性作家そのものが少ない時代にあってこうした作品を発掘すること自体が困難であったにちがいない。フランス世紀末の呪われた女性作家ラシルドから、森茉莉を経て、アメリカのSFファンタジー作家まで、既存の物語の枠を書き換えていく欲望は、時代も地域も超えて脈々と存在していた。異性愛秩序に支配された世界を転覆しようと、男性が差し向ける視線の対象に甘んじていた女性たちが、男性を愛でる視線を獲得する──、このような図式からこぼれ落ちるものは多いだろう。鏡の前でしなをつくる男の繊細な描写、狂気の愛に至るような激情あふれたセリフ、相手の微細なしぐさから想いを読み取ろうとする心情表現などを存分に味わえるのが、本書の真骨頂である。
なお平凡社ライブラリーでは、『ゲイ短編小説集』『レズビアン短編小説集』も編まれている。ジェンダー研究にとどまらず、イメージとなり物語化された「性」という視点からも、このアンソロジーが新たな地平を提供するものとなることを願っている。(熊谷謙介)
[↑ページの先頭へ]