新刊紹介 翻訳 『韓国写真史 1631-1945』

犬伏雅一(監訳)
崔仁辰(著)姜美賢・洪性雲・朴紀昤・李京彦・金根愛(訳)『韓国写真史 1631-1945』
青弓社、2015年3月

この本の魅力は何かと問われたら、発見の喜びでしょう。ただ苦みのある痛い喜びです。日本写真史は朝鮮半島とのさまざまなかかわりをなかったかのように編成されてきました。アジアを考えると、偏狭な優越的一国写真史ですね。日本人研究者の視座を一挙に相対化させて、見てこなかったもの、気づかなかったことを発見させてくれるという喜びがこの本の魅力です。著者は時としてナショナルな挙措を取られるのですが、そのために、日本人に今なお巣くっている屈折したオリエンタリズム的思考、抜きがたいナショナリズムを身体レベルで揺さぶり出します。ただ、この揺さぶりに冷静に共振すれば異なる多様な視座の可能性と水平的なコミュニケーションの可能性が開かれます。日本人には、朝鮮半島の写真史がそもそも視野に入っていなかったし、入っていても多くは進歩史観に絡めとられて日本、欧米を追従する写真といった漠たる認識でしかありません。この本が展開する議論を欧米的写真史の枠組みへ回収して「わかったつもり」になる人も多いでしょう。しかし、欧米的枠組みに対して真摯に問を発し続けている者であれば、回収しきれないものが至る所にあることに気付くと思います。(犬伏雅一)

犬伏雅一(監訳)崔仁辰(著)『韓国写真史 1631-1945』青弓社、2015年3月