新刊紹介 編著/共著 『音響メディア史』

福田裕大・谷口文和・中川克志(共著)
『音響メディア史』
ナカニシヤ出版、2015年5月

蓄音機・電話・ラジオ・磁気テープ・CD・MP3……こうした多様な音のメディアの背景には、音を別の情報様式におきかえて復元するという技術的発想が据えられている。本書『音響メディア史』が通覧しようとするのは、十九世紀の後半に誕生したこの「音響再生産」という発想が、以後の時代の流れに受け止められるなかで多様な形態のメディアを生みだし、同時にさまざまな音の文化を形成していくさまである。音響メディアに関する既存の歴史記述の試みは、もっぱら技術的な発展史となるか、あるいは音楽という文化に特化した観点からなされることが常であった。一方で本書の場合、例えば再生音をめぐる理解の歴史や、フィールド・レコーディング(生録)といった日常的な実践までもが取りあげられていることからも分かるように、音の技術と音の文化が交叉するさまがより広範な視座から捉えられている。本書のもつこうした問題意識が、本年度の学会誌『表象09』の特集記事や、そのなかでも言及されていた英米圏のサウンド・スタディーズの潮流と繋がっていることはいうまでもない。なお、著者のうちふたりは、この潮流の中心人物であるジョナサン・スターンの翻訳を近く刊行する予定である(『聞こえくる過去:音響再生産の文化的起源』金子智太郎・谷口文和・中川克志(訳)、インスクリプト、近刊)。と同時に、本書の執筆、ならびにこのスターンの翻訳にたずさわった計四名の研究者が合同で研究グループ「音響文化研究会」を立ち上げ、さまざまなゲストを招いた連続トークセッションを企画していることもあわせて紹介しておきたい。(福田裕大)

福田裕大・谷口文和・中川克志(共著)『音響メディア史』ナカニシヤ出版、2015年5月