新刊紹介 | 編著/共著 | 『クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト』 |
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千葉文夫、堀潤之(ほか分担執筆)
東志保・金子遊(編著)、港千尋(監修)『クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト』
森話社、2014年11月
本書は、2012年7月に逝去したフランスの映像作家クリス・マルケルについての日本初の論集である。表象文化論、映画学、演劇論、ラテンアメリカ文学など、多岐にわたるフィールドで活躍する研究者および批評家が、それぞれの関心をもとに各論考を担当することで、「映画」という枠に収まらないマルケルの作品群の概要を明らかにした。また、年譜とフィルモグラフィーも掲載されており、マルケルになじみのない読者にも基本的な情報を提供できるような構成となっている。
本書は大きく分けて三部から成る。Ⅰでは、主にマルケルの映画における写真の意味について考察がなされた論考が収められ、Ⅱでは、マルケルのアクティヴィストとしての側面を扱った論考が続き、Ⅲでは、主にマルケルとニューメディアの関係について検証がなされた論考が収められている。とはいえ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで扱われる主題は、完全に分かれてはいない。たとえば、Ⅰの章の堀潤之氏の「クリス・マルケル、あるいは運動と静止の戯れ」が、写真論からメディアを横断するマルケルの映像の本質へと切り込み、Ⅲの章の千葉文夫氏の「ヴァーチャルな書物、あるいはクリス・マルケルの結合術」が、マルケルの初期の著作物や写真集と後期のマルチメディア作品を関連させて分析し、巻末の港千尋氏の「脳のなかの猫」が、マルケルの政治や社会への姿勢を地域と時代ごとに浮き彫りにしたⅡの章と接続されるように、各章の各論考はそれぞれ独自性を保ちながらも、関わり合い共鳴し合っている。その意味で、本書は「関係性の芸術」と称せるようなマルケルの映像世界に接近するものである。(東志保)
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