新刊紹介 編著/共著 『開かれる国家 境界なき時代の法と政治(角川インターネット講座12)』

東浩紀(監修)
『開かれる国家 境界なき時代の法と政治(角川インターネット講座12)』
KADOKAWA/角川学芸出版、2015年6月

インターネットは国境を壊し、国民国家を消失させるという議論はいまでもそれなりに力をもっている。1970年代にカリフォルニアで生まれたネット文化は、そもそもがリバタリアニズムとアナーキズムへの志向を強くもっていた。けれども実際には、そう簡単に国民国家は消えはしない。むしろ現状は、ネットはポピュリズムと排外主義を強め、国家の壁を高くしているようにすら見える。本論集は、その経緯と現状について、複数の論文により多角的視野を与えることを試みたもの。冒頭には伊藤穣一(創発民主主義)と鈴木健(やわらかな社会)という、いわば「境界消失派」の代表的な論文を再録。そのうえで五野井郁夫(運動論)や塚越健司(ハクティズム)、橘玲(金融)に、現状の国家とネットの関係を論じてもらった。編集するなかで感じたのは、ネットが政治を変える、国家を変えるといった楽観論が、国内(震災以降)でも国外(アラブの春以降)でも、このわずか数年でじつに急速に退潮しているということ。その点で編者は、西田良介(ネット選挙)と白田秀彰(憲法論)の口ごもりがちの論文に、現在の状況がもっとも正直に反映されていると感じた。情報社会と現代思想の関係を考えたいひとに、ぜひ。(東浩紀)

東浩紀(監修)『開かれる国家 境界なき時代の法と政治(角川インターネット講座12)』KADOKAWA/角川学芸出版、2015年6月