新刊紹介 | 単著 | 『写真のボーダーランド X線・心霊写真・念写(写真叢書)』 |
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浜野志保(著)
『写真のボーダーランド X線・心霊写真・念写(写真叢書)』
青弓社、2015年3月
『写真のボーダーランド』という書名からも明らかなように、本書で扱われているのは、従来の写真研究では「周縁」に位置づけられていた写真群、すなわちX線写真、心霊写真、妖精写真、写真ダウジング、念写などである。本書では、それらのイメージやそれに関わる実践を通じて、「見る」ことと「写す」ことの複雑な関係が解きほぐされる。
もちろん写真という視覚メディアは、目に見える、現実のうつろいゆく事物をイメージとして定着したいという欲望からはじまったとも言えるが、その発明の直後から人びとは目に見えないモノを写しとることに血道を上げていく。本書でも扱われている顕微鏡写真やX線写真のみならず、妖精や心霊などのパラノーマルな現象が「写真というメディアが持つ魔力、すなわち、空想を現実にシームレスに取り込む力」(135)の対象となっていくのである。
なかでも興味深い事例が、心霊研究者フリードリッヒ・カレンベルクによる写真ダウジングである。妖精写真や心霊写真と違って、カレンベルクが対象とするのは、既存のごく一般的な写真であり、そこに写し取られた不可視のエネルギーを、振り子を使って感知するのが彼のやり方であった。「強力な可視化装置であるはずの写真の内にさえ、〈見えない〉何かが潜んでいる」(195)のである。
本書で扱われた事例は非常に幅広いので、それぞれ個別の事例に対してはより深い考察が可能であったようにも思えるが、まずは本書を出発点として、「ボーダーランド」の写真群の研究が進んでいくことを期待したい。(佐藤守弘)
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