新刊紹介 単著 『近代政治哲学 自然・主権・行政』

國分功一郎(著)
『近代政治哲学 自然・主権・行政』
ちくま新書、2015年4月

「哲学にも政治哲学にも触れたことのない初年次の学生」に向けられた講義が本書のもとになっている、と著者は「はじめに」の中で書いている。本書は、そのような講義で、政治哲学の古典を教員が学生とともに読み、その内容についてともに考え、議論するのに最適な本である(新書判の手に取り易さも魅力的である)。というのも、古典の言葉に基づいて著者自身がみずからの思索を具体的に展開してみせるかたちで本書は書かれており、この実践が、学生たちひいては教員の思索の支えになるからである。政治哲学に馴染みの薄い読者をさらに支えるのが、「権利」などの言葉に関して、各思想家の用法を踏まえつつも、それらが日本語として使われる際に持つニュアンスを常に大切にするという著者の執筆スタイルである。

本書の中心をなす七つの章では、ボダン、ホッブズ、スピノザ、ロック、ルソー、ヒュームそしてカントの七人の政治哲学が検討される。各章は、思想家一人ひとりに関する独立した概説ではなく、全章の連続が著者の一貫した思索の道程を形成している。参考文献もこの思索に資するものが選ばれており、また専門研究において重視されているテーマに関する論議もその限りで回避されているものもある。

はじめのボダンの章では、宗教戦争がもたらした封建世界の秩序崩壊に焦点を当て、この崩壊に対するひとつの応答としてボダンの絶対主義的主権論が近代政治哲学の萌芽として説明される。この主権論を踏まえつつ、第二章では、立法権としての主権がどのように形成されるのかという問題に対する説明方法の嚆矢としてホッブズの自然状態論と社会契約論が検討される。第二章以降では、ホッブズの政治哲学の論理的展開として、スピノザ以下、各思想家の哲学が俎上に載せられる。そこでの著者の思索の機軸となるのは、各思想家が主権=立法権と、法を個別事例に適用する執行権(=行政権)の関係をいかに説明しているかという問題である。この問題に関する思索は、憲法と行政の緊張関係という今日の民主主義体制においても問題となる重要テーマへとさらに展開される。古典の言葉を通じて今日的問題を考察し、今日的問題を視座として古典を読み返す往復の実践が本書には示されている。(飯田賢穂)

國分功一郎(著)『近代政治哲学 自然・主権・行政』ちくま新書、2015年4月