新刊紹介 編著、翻訳など 『西洋をエンジン・テストする キリスト教的制度世界とその分裂』

ピエール・ルジャンドル(著)
『西洋をエンジン・テストする キリスト教的制度世界とその分裂』
森元庸介(訳)
以文社、2012年4月。

中世法制史を基盤としながら精神分析の知見を織り込み、西洋の制度世界の歴史と組成に独自の光を当て、その「人類学的」な固有性を浮き彫りにする——そんな作業をひとり営々とつづけてきた著者の新しい講演集。本書での主たる分析対象は、ユダヤ、イスラームという他の一神教的伝統からキリスト教を区別する「分裂」、より具体的に言って、キリスト教が己の起源に抱え込んだ規範性の欠落である。ユダヤ的律法の否定(ないし止揚)によって己を同定したキリスト教は、やがてこの欠落を「再発見」されたローマ法の取り込みによって補塡する(中世におけるローマ=教会法、「もうひとつの聖書」の成立)。この補塡は同時に、規範性の技術化・中立化という構造的な転回をもたらし、いわば抽象化された制度装置としての「国家」の発明、ひいては現今にあって市場が具現する「効率性」の支配への道筋を開いた。大ぶりな、またときに挑むような語りに戸惑いを覚える向きもあろうが、「宗教」概念の再審を軸に、西洋に発してこの世界に徴を刻んだ波の深みを測るうえで、ともあれほかに得がたい手がかりがあると思う。彷徨を怖れぬ「若い精神」にこそ、ぜひ。(森元庸介)