新刊紹介 | 編著、翻訳など | 『武智鉄二 伝統と前衛』 |
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志村三代子(分担執筆)
『武智鉄二 伝統と前衛』
岡本章・四方田犬彦(編)
作品社、2011年12月
2012年は武智鉄二の生誕100年にあたる。戦前から演劇評論家として雑誌『劇評』を刊行、戦時中は能・浄瑠璃・落語といった古典芸能の保護・鑑賞を目的とした「断絃会」を発足させ、さらに戦後は「武智歌舞伎」を主宰し、中村扇雀(現・坂田藤十郎)や坂東鶴之助(故・中村富十郎)といった若手の歌舞伎役者たちを輩出するなど、武智鉄二の多岐にわたる芸術活動は他の追随を許さなかった。だがその後、わいせつ図画公然陳列罪に問われた『黒い雪』や、ハードコアに挑んだ『白日夢』といった映画の製作・演出がスキャンダラスな話題を提供したことから、これまでの武智の評価については毀誉褒貶があった。本書は、2010年に明治学院大学で行われた武智鉄二のシンポジウムをもとに、身体論、能狂言、前衛美術、文楽、映画といった各分野の研究者による論考と、故中村富十郎氏、故茂山千之丞氏、坂田藤十郎氏、川口小枝氏によるインタビューが再録されており、武智鉄二の多彩な業績を俯瞰する構成となっている。「伝統と前衛」という副題にあるように、伝統演劇と現代芸術をラディカルに横断した鬼才・武智鉄二の全体像を知る格好の研究書といえるだろう。(志村三代子)
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