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アニエス・アンベール(著)
『レジスタンス女性の手記』
石橋正孝(訳)
東洋書林、2012年2月
本書は、フランスの美術史家・民族誌学者のアニエス・アンベール(1896-1963)が、五年間に及ぶ自らの反ナチス闘争を詳細に記録した手記の日本語訳である。原書初版は戦後間もない1946年に出ており、最初期のレジスタンスに関する貴重な証言として多くの歴史家に参照されてきたにもかかわらず、どういうわけか2004年まで一度も再版されなかったため、一般の読者の間ではほとんど知られていなかった。半世紀以上の間アンベールを取り巻いてきたこの沈黙は、本書を通じてナチスに向けられる苛烈なアイロニーが、図らずもフランス社会に突き付けられた拒絶にもなっており、その事実を敏感に感じ取った当事者が敬して遠ざかった結果なのではないか、と思えてくる。なにしろ強烈な気魄の持ち主なのだ。たとえナチスの徒刑場にあって、生殺与奪の権を握る職工長らを向こうに回すことになろうと、一歩も後には引かない。その無鉄砲さは自らユーモアを感じさせ、訳しながら何度も背筋が伸びる思いを味わった。(石橋正孝)
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