新刊紹介

ニコライ・タラブーキン
『最後の絵画』
江村公訳、水声社、2006年09月

本書は、ロシアの芸術理論家ニコライ・タラブーキンの二つの著作『絵画理論の試み』『イーゼルから機械へ』(共に一九二三年)の翻訳である。彼はモスクワのインフク(芸術文化研究所)の書記も務め、アレクサンドル・ロトチェンコの三原色によるモノクローム絵画(一九二一年)を「最後の絵画」と呼んだことで名高い。これらの著作は、インフクを中心に展開された構成主義から生産主義への移行を理解する上で必須のものである。

一九一六年に構想された『絵画理論の試み』では、芸術作品を「色彩」「リズム」「コンポジションと構成」といった基本的な要素から分析され、さらに『イーゼルから機械へ』においては、「生産的技能」という名の下に、芸術という枠組みにとらわれないさまざまな技能のあり方が模索されている。

雑誌『オクトーバー』の最新号(二〇〇六年、一一八号)での「セルゲイ・トレチャコフ」特集に見られるように、ロシア・アヴァギャルド研究は新たな段階を迎えているといってもよい。一九七〇年代にフランス語に翻訳されて以来、抽象絵画をめぐる言説にも少なからず影響を与えてきたタラブーキンの著作は、こうした最近の研究動向を踏まえつつ再検討されるべきであろう。(江村 公)