新刊紹介

大平具彦
『二〇世紀アヴァンギャルドと文明の転換——コロンブス、プリミティヴ・アート、そしてアラカワへ』
人文書院、2009年03月

ダダ・シュルレアリスムを中心とした20世紀アヴァンギャルド研究を牽引してきた著者による労作である。本書は、アヴァンギャルド芸術を多様性に存する流動的な世界の総体として捉え、人類学的なパースペクティヴからプリミティヴ・アートとの共生的な系譜学を描き上げたものである。西欧文明とその「外部」の衝突という二元的図式のもとで纏められる傾向にあるアヴァンギャルド芸術の表現形態の力学が、ここでは異種の力線が交配する場として、脱中心的な仕方で「拡張」されていく。

第Ⅰ部では、20世紀アヴァンギャルドの形成過程と内的構造の検討を通じて、その通奏低音としてあった「混成」的要素の諸源泉が抽出される。視覚の特権性ないしは優位性に保証されていたヨーロッパの遠近法的世界像を再構築すること。ピカソがアフリカ芸術の導入によって試みたのは端的にこう要約される。次いで、アポリネール、ツァラ、ブルトンらの詩作において、ミメーシスを根底的原理とする表象体系から逸脱する「他者」としてのプリミティヴ・アートと精神分析がいかに機能していたのかが緻密に追跡される。

第Ⅱ部では、カリブ、メキシコ、日本といずれもヨーロッパ以外の地域を出自とする、セゼール、パス、アラカワらが俎上に載せられる。白眉はアラカワへ捧げられた第8章である。「有機体」から「超人間」へと拡がりを見せるアラカワの仕事の射程が、生命と環境との相関関係うちで明るみに出される。ここで、コロンブスの航路と軌を一にする西回りのヴェクトルは「反転」することとなるだろう。混交する複数の力線がひとつづつ精緻な手捌きで紐解かれ、20世紀アヴァンギャルドの核心が浮き彫りにされる。(米田尚輝)