新刊紹介

原克
『図説 20世紀テクノロジーと大衆文化』
柏書房、2009年07月

大衆文化の大衆性を可能にするのは、コンテンツが一般ウケするかしないかというのもさることながら、まずもってマスメディアそのものにほかならない。本書が注目するのは「ポピュラー系科学雑誌」であり、とりわけそこに掲載された写真図版である。19世紀後半から20世紀の欧米や日本において、それは科学技術の専門知をひろく文化的に流通させる表象メディアとして機能した。したがってそこには、最先端の学術と市民的な欲望が交錯する様子をかいまみることができるだろう。

本書に収録された図版はおよそ1700点におよび、それらは「すてきなマイホーム」「20世紀身体論」「都市という劇場」「マイカーの世紀」「走る都市」「情報のかたち」「自然とアトミックエイジ」といった7つの項目にしたがって分類される。身体と空間、速度と時間、そしてまさしく情報と自然をめぐって展開した、大衆文化の(つまり近代の夢と欲望の)写真アーカイブといっていい。

それにしても、ここに見られるほぼすべての写真がかもしだす、あのなんともいえないユーモラスな雰囲気はどうだろう。かぎりなくホットに肥大化した大衆の夢と欲望が、あくまでもクールであるはずの科学技術に仮託させられ、いちおうニュートラルということになっているマスメディアによって媒介されるとき、そこに出現するのは「なんでこうなるの?」とか「意味ネー」としかいいようのない、ほとんど不条理な風情である。しかし、それがじつは21世紀のハイテクとしっかり地続きになっているということは、本書をパラパラめくってみるだけですぐにわかるはずだ。(竹内孝宏)