トピックス[3] |
---|
若手研究者フォーラム「イメージ(論)の臨界:感性の翻訳と分有」
去る3月7日、本学会理事である岡田温司教授の主催による若手研究者フォーラム「イメージ(論)の臨界:感性の翻訳と分有」が京都大学で開催された。本フォーラム「イメージ(論)の臨界」は、2007年より年二回のペースで現在に至るまで継続されており、今回で第四回目を迎える。「感性の翻訳と分有」と題された今回は、イメージと言語、あるいは異なるイメージ同士の翻訳とその分有という主題が全体のテーマとして掲げられ、6名の若手研究者による発表がおこなわれた。 以下、各発表の概要を紹介しつつ、フォーラムの報告をさせていただくことにする。
近藤 学「マティスの「教育的」展覧会(1945年12月)と戦後再建期フランス」:近藤さんの発表は、1945年のマティスの個展で展示された制作過程の写真に着目し、その「教育的」な意図および効果について分析したものだった。ここでいう「教育的」な展示とは、画家、大衆、そして批評家にまで向けられた多層的な意味を持つものである。さらに近藤さんは、展示された制作過程の写真の配置に注目しつつ、そこに見られるマティスの戦略性を指摘した。
長友文史「既視感とテクノロジー——『モレルの発明』におけるイメージの問題」:長友さんは、アドルフォ・ビオイ=カサーレスの小説である『モレルの発明』を取り上げ、これをイメージの存在論的性格と複製技術にまつわる寓話として読むという見解を提示した。発表では、ブランショによる同書への言及や、ロブ=グリエの小説との比較を通じて、『モレルの発明』が前提としている文学的トポスや、「既視」をめぐる諸学との関連性などが示された。
佐藤真理恵 「イメージの結び目——『ソピステス』における「仮象」再考」:佐藤さんは、プラトンの『ソピステス』を中心に、古代ギリシアにおける「仮象」をめぐる発表をおこなった。佐藤さんは、影像(エイドーロン)、似姿(エイコーン)などの「イメージ」にまつわる語を綿密に整理しつつ、イメージに関する語彙がもつ倫理的、存在論的な性格について、ジャンニ・カルキアらの議論に言及しながら再考を促した。
星野 太「The pathological images——偽ロンギノス『崇高論』における媒介としてのパトス」:本報告者である星野は、偽ロンギノスの『崇高論』における言語的イメージの発生と伝達をめぐる発表をおこなった。前半では、通常「現われ、イメージ、表象」といった語に訳される「パンタシアー」概念の変遷を同書に即しつつ検討し、後半では本書におけるイメージの創造・媒介に不可欠な要素としての「パトス」について報告をおこなった。
鈴木恒平「ダーウィンのイメージたち——ダーウィン著『人及び動物の情動表現』(1872)についての写真史的考察」:鈴木さんは、広範な資料の分析を通じて、ダーウィンにおけるイメージの問題について二つの観点から発表をおこなった。本発表の前半では、1870年代初頭に流布していたダーウィンその人のイメージ分析がなされ、後半では『人及び動物の情動表現』における写真的イメージと、そこに向けられたダーウィンの執着についての指摘がなされた。
門林岳史「形式主義と批評言語の心理学化」:最後の発表者である門林さんは、20世紀初頭というほぼ同時代に生じた、美術史における形式主義および文芸批評における批評言語の心理学化という現象を分析した。前者についてはヴェルフリン、後者についてはリチャーズがその中心人物として取り上げられ、当時の人文諸科学再編の中で心理学が占めた位置と、その後の制度化の過程における心理学の抑圧、という二つの論点が最後に提示された。
各発表に対しては、司会の千葉雅也さんおよび会場からさまざまな質問、コメントが投げかけられた。発表者のひとりとしては、本フォーラム全体の主題である「感性の翻訳と分有」という問題について全体で討議する時間が残されていなかったことが多少心残りではあったが、分析対象、時代ともに広範な個々の発表を通じて、そのいくつかの足がかりは提示されたのではないかと思う。最後になるが、本フォーラムを主催された岡田温司先生、および鯖江秀樹さんをはじめとする研究室の方々には、この場を借りて深く御礼申し上げたい。
*
近藤学(ハーヴァード大学大学院・博士課程)
「マティスの「教育的」展覧会(1945年12月)と戦後再建期フランス」
長友文史(京都大学大学院・博士後期課程)
「既視感とテクノロジー:『モレルの発明』におけるイメージの問題」
佐藤真理恵(京都大学大学院・博士後期課程)
「イメージの結び目:『ソピステス』における「仮象」再考」
星野太(東京大学大学院・博士後期課程)
「The pathological images:偽ロンギノス『崇高論』における媒介としてのパトス」
鈴木恒平(神戸大学大学院・博士課程後期課程)
「ダーウィンのイメージたち:ダーウィン著『人及び動物の情動表現』(1872)についての写真史的考察」
門林岳史(日本学術振興会特別研究員)
「形式主義と批評言語の心理学化」
司会:千葉雅也(日本学術振興会特別研究員)
報告:星野太(東京大学)