新刊紹介 |
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北野圭介
『映像論序説——〈デジタル / アナログ〉を越えて』
人文書院、2009年01月
奇妙に閉じてしまいがちな「映画」を語る言葉をどうにかして開いていきたいと、これまで三冊の映画学の入門書を次々と公刊してきた著者が、今度は「映像の周りの世界」に豊かな言葉を取り戻すことを賭したという本書は、その言葉を裏切らない野心的な書物となった。
「デジタル映像」の氾濫という未曾有の事態に対して「ニュー・メディア研究」や「イメージの科学」などの横断的な知の領域が形成されつつある現在、このような知と映像の「地殻変動」に、著者は高感度の観測者たらんと立ち向かう。
だから、巻末の「理論的言説のチャート」や「人名解説」の欄が予想させるかもしれないような「現代思想」のわかりやすい解説を提供することなどが目指されているわけではない。むしろ「諸学の成果を自在に活用し、縦横無尽に組み合わせ、新しい映像に接近すること」こそが本書の企ての核心にある。
そのために、一方では安易な本質主義や還元主義に陥らぬよう慎重な迂回を粘り強く重ねながら、他方ではアクロバティックな跳躍も恐れず有効な観測地点を大胆に奪取しようとする。本書は、そのような最前線の思考が描き出した独特な運動の軌跡である。
事実、迂回と跳躍によって特徴づけることができるであろうこの運動は、例えば、バザン、クラウス、パース、バルト、バラージュという順で代表的な論者をたどってきた行程の果てに、「映像の直接性がもつ表現力」への「信仰」を断固として拒絶してしまうくだりにも窺えるように、「少なからず挑戦的なテーゼを含む」(あとがき)。本書が複数の戦線で仕掛けているこの「挑戦」に応じる議論が「映像の周りの世界」で同時多発的に生起するとき、その野心は十全な形で成就することになるだろう。(中村秀之)
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