新刊紹介 |
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原克
『アップルパイ神話の時代——アメリカモダンな主婦の誕生』
岩波書店、2009年02月
『ポピュラー・サイエンスの時代』(06)、『暮らしのテクノロジー』(07)、『流線形シンドローム』(08)と、20世紀前半の科学雑誌の分析から「神話作用」を読み解いてきた著者が、次のステップに踏み上がった。本書の分析対象は、Better Homes and GardensやGood Housekeepingなどの家庭雑誌の、今読めばなんともあざとい言説と図像。家事が機械化されていく時代に、家庭女性が「モダンな主婦というたったひとつの規範的モデルのなかへ刈り込まれていた」ようすが、執拗に示される。「キッチン・エンジニア」として家庭ビジネスの効率を上げつつ、夫と子供に対する愛とケアに欠けるところのない、そしてアップルパイを焼くのがとびきり上手な<ママ>へ向けての「刈り込み」が、産業主義と商業主義の圧倒的なパワーによって進んでいったようすが追認される。もっと大きな図版を、もっと数多く使ったら、もっとグロテスクな、もっと笑える本になっただろう。結末で触れられる"Bye-bye, Miss American Pie" が、プロセスとして、20世紀後半のいかなる産業=文化的パワーシフトのなかで、どのような神話作用を伴いながら進んだのかという点が、これから論じられるべき大問題だとわかった。(佐藤良明)
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