新刊紹介 |
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深井晃子
『ファッションから名画を読む』
PHP研究所、2009年03月
ファッション研究の第一線で活躍してきた著者が、ルネサンスから19世紀の印象派までの古典的名画の中に表象された服飾流行を、絵画実践との関わりにおいて読み解く。誰もが知るダ•ヴィンチの《モナ•リザ》からアール•デコのファッション•プレートまで多彩なイメージを取り上げながら、本書はこれまでの正統的美術史においては看過されてきた「絵画の読み方」を提示する。それはまさにタイトル通り『ファッションから名画を読む』ことに他ならない。
肖像画や風俗画の中の人物がまとう衣装の光沢、肌理や色。画面の細部にちりばめられた装飾品の数々。絵画の構成要素として描き留められてはいるものの、ほとんど注視されることのなかった存在に光を当て、それが本来持っていた社会的・政治的・経済的文脈における意味を導き出す。美術史においても社会文化や受容層の問題を含めたカルチュラル・スタディーズ的視点が重要視されるなか、絵画の主題そのものとなったファッションという「もう一つの美術史」は、ファッション研究においても新たな視座を提起するものだ。
表紙にもなった《青いターバンの少女》。当時の天然真珠の希少性について触れながら、著者は率直に語る。「フェルメールとて、ほんの少しだけ、真珠を大きめに描いたに違いない。」そんな大胆な発言に出会えるのも本書の魅力であるが、描かれたファッションには当時の産業技術は言うに及ばず、個人的趣味と社会的規範が、そして画家たちの再現力と創造力が表象されている。様々な欲望が織り込まれて出来上がるファッション。そしてそれを描き留める絵画もまた一枚の「布(キャンバス)」であったという事実を著者が思い出させてくれるとき、欲望のまとわりつく布の重層性に魅せられずにはいられない。(平芳裕子)
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