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マクルーハン再読―21世紀のメディアと文化についての国際会議
門林 岳史
「Re-reading McLuhan: An International Conference on Media and Culture in the 21st Century」と題された国際会議が、バイロイト大学アメリカ研究センター主催のもと、2007年2月14日から17日にかけてバイロイト郊外のテュルナウ城にて開催された。21世紀を迎えて以来、マクルーハンを再読する、という趣旨の国際会議が開催されたのは私が知るかぎりこれが初めてのことであり、それがカナダでもアメリカでもなくドイツで実現されたこと自体が、現在のメディア研究の状況についてなにがしかを物語っている。80年代におけるヴィレム・フルッサーの登場以降、マクルーハン的なテクノロジーへの想像力をフーコー的な歴史への認識論的視座のもと復活させたフリードリヒ・キットラーの華々しい活躍をはじめとして、いまやドイツがメディア研究における人文学的アプローチの主導権を握っているかのようだ。そして、マクルーハンという名前がメディア研究においてはっきりとは言明されないままに指し示しているものこそ、この人文学的アプローチなのである。
実際のところ私としては、「21世紀のメディアと文化についての国際会議」と副題が添えられたこの会議の趣旨自体に必ずしも共感できるわけではない。だが、「再読」という契機が突きつけてくる「いま」への問いかけなしにはどんなテクストの読解も意味をなさないのだし、マクルーハンはとりわけそうした対象として与えられている。そういう意味で、メディア論者、哲学者、文学研究者、キュレーター、メディア・アーティスト、メディア・アクティヴィスト(そして、そのそれぞれが「自称」と留保される可能性をはらんでいる)というように、さまざまな領域から集まった発表者がメディアの「いま」を問いなおすこの会議から得るものは多かった。実際、これほど領域横断的な集まりが実現されることは稀なのではないだろうか。もちろんすべての発表が意義深いものだったわけではない。しかしながら、さまざまなパースペクティヴから寄せられる問いかけの並置自体が、ともすれば自分にとってなじみ深い領域や方法を共有している研究者のあいだで自足しがちな性向を持つ人文研究者にとっては大きな刺激であり、また、そうした外部へと自分の研究を到達させようとする意志なしには人文学の未来は描きえないのだ、との思いを新たにした。
主催者の一人でもあるDerrick de Kerckhoveをはじめとして、Jay David Bolter、Mark Poster、Richard Cavellのように北米においてマクルーハンの伝統を引き継ぐ研究者たちがドイツにおいて一堂に会したことも意義深い。また、私自身の関心からは、マクルーハンに見られる目的論的なメディア史観の源流をヘーゲルの哲学までたどったDieter Merschの発表、カトリックの人文主義者としてのマクルーハンの側面を再評価するJohn Durham Petersの発表、マクルーハンの感覚についての議論をそのジェンダー論的な含意から読み解くUlrike Bergermannの発表、ヴォーティシズムを主導したモダニズムの画家/詩人ウィンダム・ルイスのマクルーハンへの影響を指摘するWolfgang Hagenの発表、レオ・マルクスが同時代に展開していた技術決定論批判の観点からマクルーハンを再読するKlaus Beneschの発表などをとりわけ興味深く聞いた。実のところ、マクルーハン研究の観点から見ると、これらの発表が新たな知見とともに華々しい成果を上げているとは必ずしも言えない。しかしながら、批評理論の文脈においてもコミュニケーション研究の文脈においても、反動的かつユートピア主義的な技術決定論者とのレッテルのもと、マクルーハンを顧みずにすまそうとする傾向が長く続いたなかで、そうした障壁が取り払われ皆が口々にマクルーハンについて語りだす光景はそれ自体で新鮮なものであった。そして、それらすべてが、まるで中世世界に迷い込んだかのようなテュルナウの情景のなかで行われたことが、この会議にもうひとつの魅力を添えていたことを付け加えておきたい。
Lastly, I wish to send a big applause to the hospitality of Martina Leeker, Kersten Schmidt and other members from the University of Bayreuth, without whose effort as organizers this gathering couldn't take place.
Re-reading McLuhan: An International Conference on Media and Culture in the 21st Century
http://mcluhan.uni-bayreuth.de/
門林 岳史