新刊紹介

イーゴリ・ゴロムシトク
『全体主義芸術』
貝澤哉 (訳)、水声社 、2007年02月

 本書の特徴は、スターリン期のソヴィエト、ナチス時代のドイツ、ファシスト政権下のイタリア、さらには毛沢東時代の中国の美術を、「全体主義芸術」という大きな枠組みでとらえなおし、そのスタイルや創作方法、あるいは社会的機能における顕著な類似性・共通性と、それを可能にした歴史的・イデオロギー的・制度的な基盤の成り立ちを包括的に考察しようとした点にある。
 イデオロギー的には対立関係にあったはずのナチス・ドイツとソヴィエトの公認芸術が、看過できない共通性を持っていることは早くから指摘されていた。今日の私たちから見ても、ソヴィエト社会主義リアリズム、ナチスに統制されたドイツ、さらには毛沢東時代の中国の美術作品に、どこか本質的に共通するスタイルやテーマ、構成原理があることは、直観的にはかなり確実であるように感じられる。
 著者ゴロムシトクによれば、「全体主義芸術」とは、党国家がそのイデオロギー的闘争の手段として芸術を全面的に独占・統制し、公式的スタイルを設定して、それに反するすべての芸術傾向にたいする闘争・テロルを開始するときに、その基礎がおかれる。そして、このようなメカニズムが作動しはじめるとき、ある程度インターナショナルで普遍的な全体主義芸術特有の共通スタイルが現れてくる、というのである。 そこでゴロムシトクは、全体主義芸術が基礎をおかれ、始動してゆくその歴史的生成過程に焦点をあわせるとともに、そのようにして生まれた全体主義芸術の作品構成原理やジャンル、スタイルの構造、テーマのヒエラルキーなどを抽出することで、全体主義芸術に共通の特徴を具体的に浮き彫りにしようとしている。 (貝澤哉)