新刊紹介 |
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松浦 寿輝
『クロニクル』
東京大学出版会、2007年04月
これは読むことの冒険を満喫させてくれる本だ。2003年から2006年に『読売新聞』に書き継がれた「文学季評」と東京大学出版会のPR誌『UP』に連載された「文化季評」をあわせて一書をなす。『クロニクル』というささやなか表題に騙されてはいけない。歩行のリズムにも似た静謐な思考と端正な文章から発せられる発言に乗せられて、読者は桐生夏生や矢作俊彦、村上龍の作品に近年日本文学の傑作を発見し、中井久夫を読むことに至福の時を見いだすだろう。たしかに、ここから日本文学の現在とわが国の文化における知性のあり方が浮かび上がってくるなどと評語するのはたやすい。けれど著者がここで投げつけている言葉はそんな生易しいものではない。一貫して本書に通底しているのは、今日の文学に対する著者の苛立ちであり、退廃的知性を前にした嫌悪である。いや、「憎悪」と言おうか。そこを貫いているのは強い「文体への意志」だ。「安定した、中庸を得た、均整の取れた『知』の姿などわたしは信じない。……人を不安にさせることのない『知』に、いったいどんな意味があるのだろう」。穏やかな文章から「過激さ」が噴出する。だから、取扱い要注意、火傷をします。 (浦雅春)
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