新刊紹介 | 編著、翻訳など | 『同一性の謎 知ることと主体の闇』 |
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ピエール・ルジャンドル(著)
『同一性の謎 知ることと主体の闇』
橋本一径(訳)
以文社、2012年5月
本書は、12世紀イタリアの教会法学者たちによりなされたローマ法のルネサンスという、ピエール・ルジャンドルの思想の核心をなすテーマが、ルジャンドルの数多くの著作のなかでもおそらくもっとも簡潔に説明された、小著ながら極めて重要な著作である。本書においてキリスト教によるローマ法の「株式公開買付け(TOB)」という比喩で説明されるこのルネサンス(ルジャンドルの言葉で言う「解釈者革命」)は、端的に言えば、社会的な規範を持たなかったキリスト教が、ローマ法を換骨奪胎し、「神」ではなく「理性」に基づく規範システムを作り上げるに至ったという事態である。特定の宗教的規範に依拠することなく、ただ「合理的」であることのみを「ドグマ」とするこの新たな規範システムは、そうであるが故に、諸宗教の差異を超えてあらゆる地域で機能する、「普遍的」な規範として流通することになる。ルジャンドルが「解釈者革命」を、「国家」さらには「マネージメント」の起源とみなすのはこのためである。西洋文明が、一般的に言われるような「ユダヤ=キリスト教文明」ではなく、「ユダヤ=ローマ=キリスト教文明」であるということを、若い学生たちに向けて語りかけた本書は、恰好の「ルジャンドル入門」であると同時に、法学を学び始めてからの自らの来歴とも重ねあわせて論じられる、現時点でのルジャンドルのある種の到達点でもある。(橋本一径)
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