新刊紹介 編著、翻訳など 『裸性(イタリア現代思想 *1)』

ジョルジョ・アガンベン(著)
『裸性(イタリア現代思想 *1)』
岡田温司(共訳)
平凡社、2012年5月

2009年にイタリアで刊行された、哲学者アガンベンによるエッセイ集の翻訳。カフカ論や「無為」をめぐる考察など、この著者にお馴染みのテーマが装いも新たに披露されている。ハイライトはやはり、本書のタイトルにも採られている一篇「裸性」。西欧文明に見られる裸/衣服の二項対立を、キリスト教の神学装置の所産として捉え、読者をその起源(アルケー)へと誘っていく。アウグスティヌスをはじめとする中世の神学者たち、さらにはベンヤミンやサルトルらの議論を経由することで、本性/恩寵、秘密/美、顔/身体といった、裸/衣服と類比的な関係にあるさまざまな二項対立の姿が浮き彫りにされる。これらはいずれも「包むもの」と「包まれるもの」の相互依存的な結びつきであり、一方が他方から独立して存在することはありえない。著者の狙いは、神学装置が築き上げてきたこれらの峰を「考古学的」に遡っていくことにある。そのようにして、装置の働きを停止させ、西欧文明が人間の身体に深く刻み込んできた二項対立を解消せしめたとき、わたしたちの眼前にはいかなる景色が広がるのか。軽快でスリリングな著者の筆運びを、愉しんでいただければ幸いである。(栗原俊秀)