新刊紹介 | 単著 | 『ブルーノ・シュルツ 目から手へ』 |
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加藤有子
『ブルーノ・シュルツ 目から手へ』
水声社、2012年4月
ブルーノ・シュルツは、1892年にポーランドのドロホビチ(現ウクライナ領)に生まれ、大戦間期に活躍したユダヤ人のポーランド語作家、画家である。――という紹介文を見ると、この作家を、難解そうな言語を用いる中東欧という地域に縛り付けたくなる誘惑に駆られるかもしれない。しかし本書は多様な点で彼の活動を「鳥瞰」する姿勢をとり、絵画と小説、そして地域間における、これまで自明とされてきたさまざまな境界を軽やかに飛び越え、融解させる。
第1に、シュルツの創作を分野横断的にとらえることで、彼の画家と作家としての活動に連続性を見出し、絵と小説のあいだの線引きを解消する。本書は、シュルツの1910年代の初期のドローイングから短編集まで、約20年の一連の創作を活動の発展系としてとらえる「世界初のモノグラフィ」であり、とりわけ絵と文を総合的に解釈する「書物」というジャンルを設定することで、芸術研究全体への新たな視点も与えている。
第2に、地域的な境界を飛び越え、マゾッホ、マン、カフカを初めとして、大戦間期における芸術家集団・個人間の影響関係やネットワークが広範囲でかつ濃密なものであることを示している。言語の問題ゆえに多岐にわたる比較は困難で課題もあるが、20世紀初頭から大戦間期における、中東欧さらにはヨーロッパ全体への、さらなる「鳥瞰」へと読者を駆り立てる研究書である。(岡本佳子)
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