トピックス | 2 |
---|
『photographers' gallery press no. 10』
新宿のphotographers' galleryが年一回発行している機関誌『photographers' gallery press』の第10号が刊行されました。「イメージで思考する」と題された今号の特集記事では、美術史家・哲学者であるジョルジュ・ディディ=ユベルマンが取り上げられています。初邦訳となる「蛍の残存─第2章─」(2009年)、「イメージは燃える」(2004年)(共に橋本一径訳)といったイメージ/写真論に加え、橋本一径氏によるディディ=ユベルマンへのロング・インタヴューが掲載されています。とりわけインタヴューでは、博士論文執筆以来、現在に至るまでの彼の仕事が包括的に語られるという、圧巻の内容となっています。その他にも、本学会員である平倉圭氏による「時間の泥──ロバート・スミッソン《スパイラル・ジェッティ》」や、前川修氏の「ブルデュー『写真論』を読む」なども掲載されています。(REPRE編集部)
→『photographers' gallery press』第10号 特設サイト
佐藤守弘著『トポグラフィの日本近代―江戸泥江・横浜写真・芸術写真』
刊行記念トーク・ショー「手のひらの中の風景――景観表象をめぐるポリティクス」
2011年3月に刊行された佐藤守弘氏の著書『トポグラフィの日本近代』をめぐり、7月16日京都MEDIA SHOPにて、「手のひらの中の風景――景観表象をめぐるポリティクス」と題された刊行記念トーク・ショーが開催された。当日は、司会の松谷容作氏と質問者の熊倉一沙氏、林田新氏が、会場を満員にした聴衆とともに著者の佐藤氏を囲んだ。熊倉氏からの本書の紹介と質問を皮切りに、聴衆を交えた活発な議論は、理論的背景から歴史的資料の細部にいたるまで、2時間以上に及ぶものであった。
安定した意味体系としての「風景」に抵抗すべく、既存の美術/写真史において周縁化されてきた対象をとりあげる著者が提唱した「トポグラフィ」の問題圏は、江戸末期の〈泥絵〉という作者未詳の絵画分析に始まり、20世紀初頭の諸外国からの眼差しの内面化を体現する〈横浜写真〉、さらにはそれを自己演出する雑誌『太陽』の地政学へと展開する。そこで討議は、諸々の視覚イメージから「近代日本」を捉え直すことに収まらず、それと現代との関係性といった論点にまで広がった。なかでも焦点となったのは、本書のなかで唯一作者性を備えるも「匿名=アノニマス」な風景を〈芸術写真〉として擁立する1910年代の山村風景の写真表象についての考察である。イメージが制作・流通・消費される具体的プロセスと国民国家との重層的な関係性について、さらには、風景そのものの匿名化や流動性にまつわる欧米との比較などの質問に、佐藤氏は、トポグラフィのダイナミクスを強調しつつ、京都/奈良性の比較や鉄道文化との関連など、著作を超え出た幅広い射程から具体的かつ丁寧に応えた。それは決して「近代」の一語に括ることのできない「トポグラフィの視覚文化論」の更なる可能性を十分に感じさせる議論でもあった。(報告:増田展大)