新刊紹介 | 編著、翻訳など | 『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』 |
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若島正・沼野充義(編)
『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』
研究社、2011年6月
ロシア出身の英露バイリンガル作家、ウラジーミル・ナボコフに関する日本で初めての本格的な論集である。4部に分かれ、それぞれが5本ずつの論文を収めている。第1部「魅惑された狩人たち」は、『ロリータ』に様々な角度から迫った。第2部「巨大な眼球」は、『ロリータ』以外の作品に光を当てる。第3部「未踏の地」は、将来のナボコフ研究の新領域を開拓するような論文が集まった。第4部「ロシアへの鍵」は、ロシア語を母語としたロシア人作家としてのナボコフに焦点を絞っている。そして最後には、ナボコフの長編『賜物』をめぐる二人の編者による討論が収められている。
この論集のもとになったのは、2010年3月に日本ナボコフ協会の主催によって京都で開催された国際学会Revising Nabokov Revisingであり、そこに参加した8名の外国からの研究者の論考はすべて翻訳されてここに収録された。ボイド、ウッド、クチュリエなど、欧米やロシアでナボコフ研究をリードする第一線の研究者ばかりである。その一方で、日本人研究者も、海外の研究者が目をつけないような斬新なテーマに果敢に挑み、決してひけをとっていない。また特筆すべきは、英米文学の専門家だけでなく、ロシア文学の専門家も参加し、英露両方からの総合的アプローチを通じて、ナボコフの姿が立体的に浮かび上がっていることだろう。ナボコフは常に自作を書きなおす作家だった。その作品を読むわれわれもまた、常に読みなおすことを通じて新しい発見を積み重ねていく。本論集のタイトルには、そのような意味が込められている。
なお国際学会の準備から本書の編集に至るまで、精力的に常に携わってきたのは、若島正氏を筆頭に、三浦笙子氏(日本ナボコフ協会会長)、中田晶子氏といった日本ナボコフ協会の主要メンバーたちである。沼野は共編者というのも名ばかり、いつも締め切りに遅れ皆の足を引っ張ってきたので、若島さんと並んで名前が出るのは嬉しいのだけれども、本当はとても心苦しい。(沼野充義)