新刊紹介 | 単著 | 『イタリア・ファシズムの芸術政治』 |
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鯖江秀樹『イタリア・ファシズムの芸術政治』
水声社、2011年6月
イタリア・ファシズムと芸術との関わりといえば、何を思い浮かべるだろうか。マリネッティの挑発的なマニフェストや、イタリア未来派の躍動感にあふれた作品を思い起こしながら本書を開くと、その予想はおおいに裏切られるかもしれない。
先行研究の多くが「未来派との癒着」や「共犯関係」を中心に論じてきたのにたいし、本書はあえて「局所的」「周縁的」な出来事をとりあげながら、イタリア・ファシズム芸術の諸相を明らかにしようとする若手研究者による野心的な労作である。グラムシを出発点に、その考察の手掛りとなっているのが、ゴベッティの絵画論、ボッタイの文化政策論、および芸術戦略論、ヴェントゥーリの美術論、ペルシコの建築批評論であり、絵画、建築、展示空間などをめぐる「論」の考察により、芸術と政治の関わりに迫るところが本書の特徴といえよう。とりわけ、評者にとって印象深かったのは、第五章「ファシズム文化のための攻防」に描き出された、当時の文化政策の中心を担ったボッタイの人物像である。人種差別的政策に異議を唱えながら、イタリア人の伝統や「魂」を賞揚するボッタイの理想の国家イメージが、イデオロギー的にも社会的にも異なる立場にいたグラムシの思考と奇妙なかたちで交錯することを、筆者は第五章の結論で指摘する。おそらく、両者は違う場所にいながら、当時のファシスト政権が無視していたもの、見えない素振りをしようとしていた近代化の負の側面に気づいていたようにも思われるのである。
過ぎ去った20世紀初頭——著者のいう「わたしたちの生活の原型が形成された「近代」」を再考するとき、この本は大きな示唆を与えてくれる必読の書といえるだろう。(江村公)
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