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はぐらかされる同一性——指紋と写真をめぐって
学会員の橋本一径氏の著書『指紋論——心霊主義から生体認証まで』(青土社、2010)および、前川修氏、佐藤守弘氏が翻訳に関わったジェフリー・バッチェン『写真のアルケオロジー』(青弓社、2010)の刊行を記念したトークイベント「はぐらかされる同一性——指紋と写真をめぐって」が、2010年11月12日19時20分より新宿のphotographers' galleryにて開催されました。
橋本氏、前川氏に細馬宏道氏を交えた本イベントは、来聴者が会場に収まりきらず、プロジェクション視聴のため別室が設けられるほどの盛況で、来聴者との質疑応答を交えた熱気のこもった議論が夜遅くまで展開されました。(REPRE編集部)
写真提供:photographers’ gallery
横浜文化創造都市スクール(北仲スクール)
2011年4月、横浜国立大学には新しい大学院と新しい課程が誕生する。「都市イノベーション学府」と教育人間科学部「人間文化課程」である。「都市イノベーション学府」の「建築都市文化専攻」では、これまで別の大学院に分かれていた文化・芸術学と建築がひとつの教育単位になる。そして「人間文化課程」では、これまで別の課程に分かれていた「マルチメディア文化課程」の文化・芸術学部分と「国際共生社会課程」が合体して、ひとつの教育単位になる(「マルチメディア文化課程」の数学・情報工学部分は工学部に合流して、理工学部になる)。
もっとも、組織の再編はこのように目まぐるしいが、そのための会議や作業を除けば、日常はさして変わらない。すでに2009年から横浜国立大学の文化・芸術学と建築意匠のスタッフは、横浜・馬車道の「北仲ブリック」―大正15年に建てられた旧横浜生糸検査所倉庫事務所―を拠点に、「横浜文化創造都市スクール」(北仲スクール)を開校しているからだ。ここでは横浜国立大学のみならず、横浜市立大学、東京藝術大学、神奈川大学、関東学院大学、東海大学、京都精華大学の「都市文化」「都市デザイン」に関わるスタッフが、試行錯誤を重ねている。
2009年には、北仲スクール代表・室井尚を司会として、開校記念シンポジウム(内田樹×吉見俊哉「ポスト戦後社会と都市文化の行方―いま何が起こっているのか」)が開かれた。会場は「北仲ブリック」向かいのYCC(ヨコハマ創造都市センター)。壮麗な歴史的建造物、旧第一銀行横浜支店であるが、タイトル自体を「コピペ」で作った連続公開講座「サブカルニッポンのアーキテクチャ」を行ったのも、そこだった(企画者:清田友則、榑沼範久、企画協力者:杉浦由美子、今田佑介、森原早苗)。濱野智史「ニッポン・ネット・カルチャーの生態系―島宇宙化と動物化の果て」、速水健朗「ケータイ小説的郊外―または、ラブ・ロマンスはいかに環境に規定されるか」、杉浦由美子「イケメンは好き? それとも嫌い? ―腐女子vs.リア充 コンテンツと歴史における男性観の変容」、荏開津広「グラフィティ/ストリート・アートはこんな今、どこに向かおうとしているのだろうか―“ポスト・グラフィティ”を再構築する試み」、五十嵐太郎「ヤンキー文化、ヤンキー建築」、倉科典仁「モテとホストと地方都市―不良文化と雑誌メディアの今」。会場を「サブカル仕様」に近づけるための仕掛けも、幾つか試みられた。
これらの記録は、連続上映会「未来の巨匠たち」(瀬田なつき、加藤直輝、桝井孝則、唐津正樹、片桐絵梨子、矢部真弓、小出豊、佐藤央、三宅唱、濱口竜介)も企画した梅本洋一による宣言文「夜行列車は走り続ける」、及び都市デザイン連続公開講座「変わりゆく都市へのアプローチ」の記録、「寺嶋真理個展上映会」・「椿昇展Gold/White/Black-Complex」のポスター図案などとともに、『KITANAKA SCHOOL ANNUAL 2009/2010』(進呈中)にまとめられている。
そして2009年には何よりも、われわれの同僚、故・大里俊晴の追悼会があった。細川周平や許光俊の言葉が胸を打った。死の迫る大里俊晴が新潟で記録した「間章に捧げる即興演奏」が上演された。轟音がYCCホールを満たした。黒い追悼文集『役立たずの彼方に―大里俊晴に捧ぐ』にはジム・オルークの銀の題字が走り、吉増剛造の巻頭詩が写真に収められていた。大里俊晴自身の言葉は、青山真治『AA』に録音された声のみならず、一周忌に刊行された『マイナー音楽のために―大里俊晴著作集』(月曜社)の文字としても蘇生し、多くの者を畏怖させるに違いない。
2010年には、「大森克己の写真ワークショップ&公開講座――そして世の中には写真に写らないものがある」を始めた(企画者:松井宏、彦江智弘、平倉圭、榑沼範久)。応募者181名が集まり、30名が抽選で選ばれた。誰でも応募できる。そして、税金で運営されている北仲スクールのイベントは、すべて無料である。公開講座の初回(10/25)は対談(町口覚×大森克己「はじまりの写真、はじまりのことば」)、第二回(12/17)は間部百合を招いての大森克己による公開講評会。
もちろん北仲スクールでは、「正規授業」も開講し続けている。2010年度前期は「映像文化論A」(梅本洋一)、「アーバンアート論A」(室井尚)、「アーバンポップ論A」(佐々木果〔ササキバラゴウ〕)、「横浜インナーシティ論」(櫻井淳)、「ランドスケープ論」(中津秀之)、「横浜建築都市学S」(山本理顕・北山恒・飯田善彦・西沢立衛・小林重敬・鈴木伸治)、「都市デザイン論A」(国吉直行)。夏季集中で「アーバンポップ論C」(佐藤守弘)。
後期は「映像文化論B」(彦江智弘)、「アーバンアート論B」(榑沼範久)、「アーバンポップ論B」(清田友則)、「産業イノベーション論」(金子延康)、「横浜建築都市学F」(山本理顕・北山恒・飯田善彦・西沢立衛・小林重敬・鈴木伸治)、「景観アーカイブ論」(水島久光)、「都市デザイン論B」(鈴木伸治)。
ただし、例えば「映像文化論B」(彦江智弘)では12/14に入江悠を招き、映画に関する講演会と対談を開催。「アーバンアート論B」(榑沼範久)では10/28に藤本壮介、12/09に平田晃久を招き、建築に関する講演会と対談を開催。(ポスター及びチラシのデザインを担当しているのは新谷和也、記録・運営を主導しているのは椋本輔と木村勇樹)。こうしたイベントは何れも公開であり、誰でも聴講することができる。
こうした「横浜文化創造都市スクール」(北仲スクール)でのイベントは、たく さんの人たちのあいだに渦を巻き起こしたり、波風を立てたりしながら、2011年 4月から発足する横浜国立大学「都市イノベーション学府」と教育人間科学部 「人間文化課程」にも引き継がれることになるだろう。
「横浜文化創造都市スクール」(北仲スクール)のイベントはこれまでも幾つか、表象文化論学会の《REPREニュース》で広報していただいている。とはいえ、「横浜文化創造都市スクール」(北仲スクール)のイベントは、「自分が何者か分からない」人びと(そして「自分が何者か分からない」なかで何かを行ない、考えることのできる人びと)に参加してほしいものが多い。学会員ならば「自分が何者か知っている」という意味ではないが、たとえば学会員の方々が知っている学部生、教えている学部生にも教えていただければ幸いである。(報告:榑沼範久)