PRE・face

PRE・face
モランディ再訪
岡田温司

来年の4月から約半年、豊田市美術館を皮切りに、鳥取県立博物館と神奈川近代美術館(葉山)を巡回することになるモランディ展の準備も佳境に入ってきた。ボローニャの近代美術館とフィレンツェのロンギ財団の協力のもとで進められている今回の企画は、日本で2度目の本格的な画家の展覧会となる予定である。近年ますます、世界中でモランディの人気が静かに、しかし確実に高まっているように思われるのだが、それにしても、いまなぜモランディなのだろうか。

20世紀の美術を代表するアーティストを仮に3人挙げろといわれれば、わたしは迷うことなく、ピカソとデュシャンとモランディと答えるだろう。というのも、この3人こそは「近代」の芸術のあり方を象徴する存在だからである。あえて乱暴に、それぞれの芸術の本質をひとことで、「変化」と「放棄」と「反復」と要約しておこう。さらにそれぞれ順に、「オリジナリティ」「アイロニー」「メチエ」という理念をくわえてもいい。

「反復」と「メチエ」のモランディ。この職人画家には、多くのアーティストを彩ってきたドラマティックで華やかなエピソードがまったく欠けている。しかし、それにもかかわらず、あるいはそれゆえにこそ、この画家の芸術と生について語ることの意義は大きい。たいていの場合、わたしたちの日常はルーティンの反復からなっているものだ。あえて逆説的な言い方をするなら、その人物は、およそ芸術家らしくない芸術家だからこそ、その作品は、およそセンセーショナルでもなければ記念碑的でもないからこそ、それらについて語るに値するものがある、とわたしは考えているのである。多くの人が展覧会に足を運んでくれることを祈ってやまない。

岡田温司(京都大学/表象文化論学会会長)