新刊紹介 編著、翻訳など 『ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学』

篠儀直子ほか(訳)
ジョン・リーランド(著)『ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学』 ブルース・インターアクションズ、2010年8月

アメリカ英語においてある種の「かっこよさ」を意味する言葉、「ヒップ」は、マージナルなもの・「サブカル」的なものであるどころか、アメリカ文化史を貫く主軸であり、アメリカをアメリカたらしめているものだと著者は言う。それはアフリカ人がアメリカ大陸に連れて来られたときから始まった、黒人と白人とがともに手を取って踊るダンスなのだ。両者はお互いを模倣し、転用し、リスペクトし、欺く。政治や経済のダイナミクスとともに変容していくこのダンス=「ヒップ」という「知」のあり方の変遷を、17世紀から21世紀初頭までたどる本書は、ブルース、ミンストレル・ショー、ロスト・ジェネレーション、ハーレム・ルネサンス、ノワール、ビバップ、ビート、ドラッグ・カルチャー、ギャングスタ・ラップ等々の事例を、多彩できらびやかな(そして、ときに悲惨な)登場人物たちを散りばめつつ追っていく。語りのスタンスは自在でしなやかでありながらも、浮かび上がるのは圧倒的に重厚な精神史だ。(篠儀直子)